水墨画 四君子の描き方|蘭竹梅菊の基本筆運び
水墨画 四君子の描き方|蘭竹梅菊の基本筆運び
四君子は、蘭・竹・梅・菊の四つを指す水墨画の基本画題で、春夏秋冬の四季をそれぞれ映す題材です。長年、初心者が最初に学ぶのは風景や人物よりも先にこの四種だとされてきました。
四君子は、蘭・竹・梅・菊の四つを指す水墨画の基本画題で、春夏秋冬の四季をそれぞれ映す題材です。
長年、初心者が最初に学ぶのは風景や人物よりも先にこの四種だとされてきました。
蘭の葉を教えると、ほとんどの初心者は一筆目を短く切ってしまい、鳳眼の空間が生まれませんが、画仙紙の対角線いっぱいまで思い切って長く引かせた瞬間に線へ気持ちが乗り、急に蘭らしくなるのです。
この記事では、蘭・竹・梅・菊を一筆目から順にたどりながら、どこに筆を入れ、何筆で形を立てるのかを具体的に見せていきます。
四君子とは何か|蘭竹梅菊が水墨画の基本になる理由
四君子は蘭・竹・梅・菊の四種を指し、春は蘭、夏は竹、秋は菊、冬は梅に対応します。
気高く清らかな姿を徳のある人物、つまり君子になぞらえた呼び名で、花鳥画の鑑賞語というより、水墨画の学びを支える基本の地図として受け取ると理解しやすいでしょう。
蘭竹梅菊には、調墨、曲線、直線、かすれ、にじみ、線の重なりといった基礎がひと通り含まれているため、初心者が最初に触れる題材として理にかなっています。
四君子=蘭・竹・梅・菊と四季の対応
四君子とは、蘭・竹・梅・菊の四つをまとめた画題です。
春に蘭、夏に竹、秋に菊、冬に梅を配し、四季の移ろいを一組のモチーフで表すのが基本になります。
しかも、この4種はただ季節を表すだけではありません。
清らかで節のある姿を、人としての徳を備えた君子になぞらえたところに由来があり、見た目の美しさと精神性が重なった題材だといえます。
水墨画の練習題材として四君子が重宝されるのは、花・葉・茎・枝の中に基本技法がきれいに分かれているからです。
蘭はしなやかな曲線、竹はまっすぐ引く運筆、梅はかすれやにじみ、菊は線の重なりを学べます。
風景や人物は要素が多く、最初から全体の構図に気を取られがちですが、四君子なら1枚で1つの技法に意識を集中しやすい。
教室でも、最初に四君子の手本を見せると「きれいだけど自分には無理」と身構える人が多いのですが、蘭の葉1本を数分で描けると分かると、表情が変わるのです。
なぜ初心者は四君子から始めるのか
初心者に四君子を勧める理由は、見栄えより先に手の動きを育てやすいからです。
三墨法で淡墨・中墨・濃墨を使い分け、直筆で細い線を立て、側筆で穂の腹を生かす。
この基本が、四君子の4モチーフにそのまま分散して現れます。
だからこそ、1枚の中であれもこれも詰め込むより、1モチーフ=1技法として切り分けたほうが上達が速いのです。
実際、受講生に「今日は蘭だけ」と絞った回のほうが、あれもこれも教えた回より伸びが早くなりました。
葉の一筆目と二筆目を交差させて鳳眼の空間を作るところまで集中すると、線を一気に引く感覚がつかめます。
1回約2時間の講座で1種を学ぶ粒度なら、理解と反復の両方が回りやすい。
1日1モチーフが、結局はいちばんの近道だと感じます。
蘭→竹→梅→菊で学ぶおすすめの順番
おすすめの順番は、蘭から始めて竹、梅、菊へ進む流れです。
蘭は花より葉が主役で、細く長い線をためらわずに引く練習に向いています。
ここで線を一気に引く感覚が入ると、次の竹で幹の勢い、節の切り替え、葉の配置へと自然に広がります。
竹は幹→節→枝→葉の順が鉄則なので、構造を意識する力も同時に鍛えられます。
梅では、枝や花芯から形を立ち上げる感覚に加え、側筆のかすれやにじみが効いてきます。
墨の含ませ方で表情が変わるため、用墨の理解が一段深まる段階です。
菊は花形・中心・花弁の流れをそろえ、手前から奥へ線を重ねていくので、4つの中ではいちばん複雑です。
蘭で曲線、竹で運筆、梅でかすれ、菊で重なりへと難度を上げると、水墨画の基礎が無理なく積み上がっていきます。
これが四君子を学ぶ王道でしょう。
描く前の準備|筆・墨・和紙と三墨法の作り方
四君子の練習は、描き始める前の準備で半分決まります。
面相筆と太筆、墨と硯または墨液、にじみの出る画仙紙、下敷き、筆洗をそろえれば十分で、最初から高価な道具に寄せる必要はありません。
紙はにじみ加減の違う数種を試し、線が生きる紙と面が締まる紙の差を見ておくと、蘭・竹・梅・菊それぞれの性格がつかみやすくなります。
そろえる用具と紙の選び方
最低限の道具は、線描き用の面相筆と面を塗る太筆、墨と硯、あるいは墨液、そしてにじみの出る画仙紙、下敷き、筆洗です。
四君子は一見すると同じ水墨画に見えても、蘭は細い葉線、竹は幹の運筆、梅は老幹のかすれ、菊は花弁の重なりと、必要な線質がまるで違います。
だからこそ、筆を分けて持つことが後の迷いを減らします。
紙も1種類で決め打ちせず、にじみが強い紙と抑えめの紙を比べておくと、描きたい表情に合わせて選びやすくなります。
高価な道具をそろえるより、まずは使い分けを体で覚えるほうが上達は速いでしょう。
とくに紙は、墨の広がり方で線の印象が変わるため、同じ筆でも出来栄えが別物になります。
受講生の現場でも、最初から道具を整えすぎた人より、手元の数を絞って紙の違いを見た人のほうが早く勘をつかみました。
おすすめです。
直筆・側筆の持ち方と運筆の基本
直筆は筆を垂直に立て、穂先で細く均一な線を引く持ち方です。
側筆は筆を寝かせ、穂の腹を使って太い面やかすれを出します。
蘭の葉や竹の幹は直筆寄り、梅の老幹は側筆寄りと覚えると、どの筆をどう入れるかが整理しやすくなります。
線を立てて通す場面と、面で押し出す場面を分けるだけで、同じ墨でも見え方は大きく変わります。
受講生の失敗の8割は、墨そのものより水分量にあります。
皿で穂をしごかず、筆にたっぷり水を含ませたまま引いてしまうと、最初の一葉がべったり潰れます。
逆に水が少なすぎると、線が途中から乾いて勢いを失うのです。
だから、蘭なら一筆で葉を通し、竹なら幹の太さを保ち、梅なら老幹の荒れを残す、といった具合に、直筆と側筆を使い分けてみてください。
三墨法で濃墨・中墨・淡墨を1本の筆に作る
三墨法は、1本の筆に淡墨・中墨・濃墨の3段を含ませ、1筆でグラデーションを出す技法です。
穂全体に水を含ませて淡墨を作り、次に穂の半分ほどへ中墨を入れ、最後に穂先だけ濃墨を付けます。
この順でまとわると、葉の根本から先へ自然に色が締まり、蘭・竹・梅・菊のどれにも使える濃淡の土台になります。
穂先に濃墨、根本に淡墨が出るだけで、線は一気に水墨画らしくなるのです。
初めて三墨法が決まると、受講生は「1本の筆でこんなに濃淡が出るのか」と驚きます。
とくに葉先に濃墨、葉元に淡墨がきれいに乗ると、線の中に奥行きが生まれます。
紙の上で色が変わるのではなく、筆の中で変わるから面白いのでしょう。
描く前には新聞紙などで1〜2筆おろし、穂先から根本への濃淡が出ているかを見てみてください。
墨が多すぎればにじんで潰れ、少なすぎれば最初からかすれます。
試し描きで水分量を確かめることが、本番の安定につながります。
蘭の描き方|葉の一筆目・二筆目と鳳眼
蘭は葉→花→花茎→花芯の順で描くと、線の迷いが減って全体の形が素直にまとまります。
なかでも蘭らしさの大半は葉の線の動きで決まるので、最初に葉だけを繰り返し練習するのが上達の近道です。
葉は一筆目の長い伸び、二筆目の短い交差、三筆目で鳳眼を破る動きが骨格になるため、順序を覚えるだけで見え方が変わるでしょう。
描く順序は葉が先・花は後
蘭は、葉を先に置いてから花、花茎、花芯へ進めると安定します。
先に花を描くと視線が花に引っぱられやすいのですが、蘭の印象を支えるのはむしろ葉の流れです。
だからこそ、葉の角度と長さで空間を決め、そこへ花を添える順番が自然になるのです。
初心者がまず葉だけを描く練習を重ねると、一本の線で蘭全体の気配を作る感覚がつかめます。
葉が整えば、花は迷わず乗ってくる。
そこが面白いところです。
葉の古法|一筆目・二筆目・三筆目と鳳眼
葉の古法は、三つの筆致をつなげて理解すると入りやすいです。
一筆目は長く伸びやかに引き、二筆目はそれより短く、一筆目に近づけて交差させます。
このとき、二本の線のあいだに細い空間が生まれ、鳳眼(鳳凰の眼)と呼ばれる抜けになります。
初心者は二筆目を離しすぎて鳳眼ができないことが多いのですが、あえて近づけて交差させると、急に蘭らしく見える瞬間があります。
受講生と何度も共有してきたのは、まさにその変化です。
三筆目は、その鳳眼を横切るように引いて空間を破ります。
破ることで葉組みに動きが出て、静かな形の中に張りが生まれるからです。
線は根本から上へ、さらに右へ、左へと伸びやかに動かし、長短・表裏・太細を一葉の中で変えていきます。
筆の入りで少し置き、抜きでふっと離すと緩急がつき、途中で止めず一気に引き切ると線が生きます。
細かく直そうとするより、目を閉じて深呼吸してから引いた葉のほうが、指導現場ではいつも生き生きしていました。
ℹ️ Note
葉は1枚ずつ「整える」より「走らせる」意識が向いています。止めない線ほど、蘭のしなやかさが出やすいでしょう。
花と花芯の入れ方
花は五弁を意識して、葉の流れに呼応する位置へ点じます。
ここで大切なのは、花を主役として盛り上げすぎず、淡い葉の線に対して静かに明度差を作ることです。
最後に花芯を濃墨でぽつぽつと打つと、全体がきゅっと締まります。
葉の軽さ、花の明るさ、花芯の濃さがそろうと、1枚の中に一気曲線・太細・濃淡の3技法が見えてきます。
蘭はその三つをまとめて練習できる、よい総合教材です。
おすすめです。
竹の描き方|幹・節・枝・葉と个字介字の葉組み
竹は、幹・節・枝・葉の順で骨格から組み立てると、形がすっと定まりやすい題材です。
逆に葉から入ると、空中に葉だけが浮いたように見え、竹の軸が立たないまま全体が崩れます。
まず幹で一本の流れを通し、そこに節と枝を重ね、最後に葉を添える。
この順番を守るだけで、初心者の竹は見違えます。
崩れない描き順は幹→節→枝→葉
竹は幹→節→枝→葉の順で描くのが基本です。
現場でも、受講生に自由に描かせると葉から先に置いてしまい、結果として「竹」ではなく、どこか軽い草の束に見えることがよくあります。
幹という骨格が先に立っていれば、枝も葉もその軸にぶら下がるので、画面の重心が決まり、どこを見ても竹の姿になります。
描く順序は単なる手順ではなく、竹を竹に見せるための構造そのものだと考えてよいでしょう。
幹と節の運筆
幹(竹管)は下から上へ、勢いをつけて引きます。
穂先を竿の左側に保ち、節ごとに一度止めてから次の節へ進めると、竹らしい緊張感が出ます。
上へいくほど節間を細く長くすると、均一で無機質な棒ではなく、ひょろりと伸びた自然な姿になるのです。
実際、節間を全部同じ長さで描くと「竹輪のよう」になってしまいますが、上ほど長く細くするだけで雰囲気ががらりと変わります。
墨を途切れさせず、一気に通す意識も大切です。
途中で力が抜けると、幹の張りが弱まり、竹の品が消えてしまいます。
節は左右の枝の付け根です。
節の上に『乙』字や八の字の短い線を打つと、節の存在が自然に立ち上がります。
そこから枝を左右交互に出し、細い線で勢いよく払うと、幹との対比が生きてきます。
幹より細く、先へいくほど枝も細くなる流れを意識すると、上へ向かう軽さが出ます。
受講生にこの描き方を教えると、節間を均一にしていたときは硬かった線が、上にいくほど細く長くしただけで本物らしく見えたと驚かれることが多いです。
个字・介字・魚尾法で葉を組む
葉は个字(个)・介字(介)の形に組むと、一葉ごとの位置を迷いにくくなります。
葉は単独で考えるより、まとまりで見るほうが全体のバランスを整えやすいからです。
3枚、5枚と奇数で群を作るとリズムが出て、左右の重さも偏りません。
竹の葉は密に詰め込むより、少し抜けを残したほうが風を含んで見えます。
ここで個々の葉を同じ向きに揃えすぎると硬くなるので、向きと長さにわずかな差をつけましょう。
一葉の描き方は魚尾法が使いやすいです。
穂先から入り、腹で少し太らせ、素早く抜く。
この動きがあると、葉先に切れが出て、墨の勢いがそのまま葉脈の張りになります。
葉を先に置いてから幹を合わせようとすると形が浮きやすいのですが、幹と枝が先に決まっていれば、葉はその間を埋めるように乗っていくので、画面全体のまとまりが一気によくなります。
おすすめです。
幹を通し、節を置き、枝を払い、最後に个字・介字で葉を組んでみてください。
竹の呼吸がつかめます。
梅と菊の描き方|花の描き始めとかすれ・重なり
梅の描き始めは、木全体を見せたいのか、花を主役にしたいのかで変わります。
枝ぶりが画面の流れを決めるなら枝から入り、花そのものの表情を強く出したいなら花芯(しべ)から置くと迷いません。
受講生が「枝から? 花から?」で止まる場面は多いですが、先に見せたいものを決めるだけで筆が動き出します。
梅の花は五弁を円の線で取り、満開、斜め、横向き、つぼみを混ぜて並べると画面に呼吸が生まれます。
花弁の大小や向きで遠近を出し、しべと萼は最後に濃墨で打つと輪郭が締まるのです。
梅ではかすれ・にじみが要になるため、蘭や竹で養った運筆をそのまま枝に移すと、描線の勢いと静けさが同居するでしょう。
梅|枝から描くか花芯から描くか
梅はまず、空間に枝がどう流れるかを決めるところから始まります。
木全体を描くなら枝が骨格になるので、枝ぶりを先に通してから花を添えるほうが全体がまとまります。
反対に、花を主役にして枝は背景へ退く構図なら、花芯(しべ)から入り、そこへ花弁を広げる順序が自然です。
構図の主役を先に決めることが、梅を描くいちばんの近道になるのではないでしょうか。
梅で「枝から? 花から?」と固まる受講生は多いですが、今日は花を見せたいのか枝を見せたいのかを先に決めさせると、たいてい筆が動きます。
五弁はただ並べるのではなく、満開、斜め、横向き、つぼみを混ぜ、大小を変えて遠近を作ります。
花の向きがそろいすぎると平板になるので、少しずつ角度をずらして置いてみてください。
梅の老幹のかすれと点苔
梅の老幹は、太い線をきれいに引くより、側筆でかすれを出したほうが年輪の気配が出ます。
墨が均一に乗らない部分にこそ、幹の古さや乾いた質感が宿るからです。
そこへ点苔を散らすと、枝先や幹の節に時間がたまったような風格が生まれます。
若い枝の張りと老幹の渋さが対照になるので、梅全体がぐっと締まります。
濃墨でしべと萼を打つ工程も、単なる仕上げではありません。
花の中心を強く示すことで、淡い花弁との距離が立ち、見ている側は花の向きと奥行きを自然に読み取れます。
かすれ、にじみ、点苔という要素がそろうと、蘭・竹で培った線の調子が梅に転じる手応えが出るはずです。
菊|中心を決めて手前から奥へ重ねる
菊は花形、中心、花弁の流れを先に決めて土台を作ります。
外形を横長や菱形で取っておくと、全体の張りが見えやすく、そこへ向かって全弁が中心の一点に集まる構成を作りやすくなります。
描く順序は手前の花弁から奥へで、弁の表裏を意識しながら重ねると、平面の記号ではなく立体の花として立ち上がります。
菊の花弁を全部同じ濃さで描くとのっぺりしますが、手前を濃く奥を淡くと教えると、急に立体になって本人がいちばん驚きます。
表をやや強く、裏を少し抑えて入れるだけでも重なりが見え、中心へ吸い込まれる流れがはっきりします。
菊は線の重なりが魅力なので、一本ずつを独立させるより、前後関係を意識して重ねてみてください。
梅はかすれとにじみ、菊は線の重なりです。
蘭・竹で養った運筆と三墨法を、梅では枝のかすれに、菊では多数の花弁の重なりに応用すれば、四君子が一通り描けるようになります。
まずは花を見せるのか枝を見せるのかを決め、次にどの線を濃くするかを見極めてみましょう。
美術大学で日本画を専攻し、水墨画の技法研究で修士号を取得。カルチャースクールや自治体講座で15年以上の指導実績。画材メーカーとの共同研究で墨・和紙の品質評価にも携わる。海外の日本文化イベントで sumi-e ワークショップを多数開催。
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