水墨画 竹の描き方|筆運びと濃淡のコツ
水墨画 竹の描き方|筆運びと濃淡のコツ
竹は四君子、しくんし(Four Gentlemen)のひとつで、水墨画の基本を手に覚えさせてくれる最初の画題です。この記事では、机の上で扱いやすいサイズを目安にした一枝(目安: A4サイズ相当で描ける大きさ。
竹は四君子、しくんし(Four Gentlemen)のひとつで、水墨画の基本を手に覚えさせてくれる最初の画題です。
この記事では、机の上で扱いやすいサイズを目安にした一枝(目安: A4サイズ相当で描ける大きさ。
一般的な半紙は約242×333 mmで、A4(210×297 mm)より一回り大きい点に留意してください)を、目安として約60分で仕上げることを目標に、竹を幹・節・枝・葉へ分け、側筆(そくひつ)や濃墨(のうぼく)をどう使い分けるかを順にほどきます。
同じ竹でも、私は唐紙では線が止まりやすく形を整えやすく、画仙紙では筆を置いた瞬間ににじみが広がって淡墨の空気が立ち上がる感触があります。
その差まで含めて、筆の角度・速度・圧・墨量と紙の吸い込みを結びつけて練習すると、墨一色でも単調にならず、竹らしい伸びやかさが紙の上に残ります。
水墨画は唐代後半に山水画の技法として形づくられ、日本には鎌倉時代に禅とともに伝わりました。
入門でまず頼りになるのは難しい理屈より一筆の手応えです。
道具の選び方と予算感も押さえながら、初めてでも「竹に見える一作」まで運んでいきます。
水墨画で竹を描く前に知っておきたい基本
水墨画は、中国の唐代後半に山水画の技法として形を整え、日本には鎌倉時代に禅とともに伝わりました。
水墨画 - 通り、成り立ちの中心にあるのは、墨の濃淡だけで空間や気配まで描き分ける発想です。
ここでいう水墨画は、輪郭を墨一色で追うだけの白描(はくびょう)や、広い意味での「墨絵」とは同じではありません。
濃墨・中墨・淡墨(のうぼく・ちゅうぼく・たんぼく)を使い分け、ぼかしやにじみまで表現として扱うところに、水墨画ならではの奥行きがあります。
竹を学ぶ前にこの違いを押さえておくと、「線を正確に引く練習」と「墨で気配を立ち上げる練習」が別物だと見えてきます。
たとえば幹を描くときの直筆(ちょくひつ)と側筆(そくひつ)は、単なる持ち方の差ではなく、竹稈(ちくかん)の厚み、節の張り、表面の乾いた感じをどう出すかに直結します。
葉では魚尾法(ぎょびほう)のように、入りを含ませて先をすっと抜く一筆が、そのまま風の向きや若葉の軽さになります。
水墨画の入門が竹から始まることが多いのは、こうした要素が少ない筆数でまとまり、しかも墨の表情がそのまま見えるからです。
竹は四君子(しくんし / Four Gentlemen)のひとつで、蘭・竹・菊・梅の中では夏を象徴する画題です。
四君子は単なる植物の並びではなく、季節感と人格的な象徴を重ねて学ぶ題材群として扱われてきました。
そのなかでも竹は、幹の太線、枝の細線、葉の一息の運筆という三つの基本ストロークから入りやすく、筆の角度・速度・圧の違いが目に見えて現れます。
初心者講座で最初に竹を扱うと、太線・細線・一息の葉の三種だけで「竹らしさ」が立ち上がることに、受講者の表情がふっと和らぐ場面を私は何度も見てきました。
構造が複雑すぎないので、描く前の身構えがほどけやすく、「描けるかどうか」より「どう線が変わるか」に意識を向けられるのです。
この題材で身につけたいのは、形の暗記ではなく対応関係の把握です。
本記事では、幹・節・枝・葉という4要素を、それぞれの運筆と墨と紙に結びつけて見ていきます。
幹は側筆でやや寝かせ気味に入り、速度を落としすぎず、中墨を中心に置くと厚みが出ます。
節は濃墨を少し効かせると締まり、入れすぎると重くなるのでアクセントとして扱うと全体が整います。
枝は直筆で筆を立て、圧を抑えて伸びを出すと、幹との親子関係が見えてきます。
葉は魚尾法で一息に引き、角度の違いで方向性を作ると群れに呼吸が生まれます。
紙の選び分けも同じ地図の中にあります。
唐紙は線の止まりが見えやすく、形の確認に向き、画仙紙はにじみが先に立つので淡墨の空気や重なりを読む練習に向きます。
💡 Tip
竹の練習では、「何を描いたか」より「どの線が、どの角度・速度・圧で出たか」を見返すと上達が早まります。一本の幹がうまくいかなかったときも、形より先に運筆を分解すると原因が見つかります。
このあと進める手順も、その対応マップに沿っています。
幹だけを見れば太い線の練習、葉だけを見れば細い払いの練習ですが、竹としてまとめた瞬間に、濃・中・淡の配置と紙の吸い込みが一枚の中でつながります。
Japan Objects Sumi-e Guideが竹を入門題材として挙げるのも、その構造が明快だからです。
竹は簡単なモチーフというより、少ない要素で水墨画の基礎が一通り現れる教材だと捉えると、この先の一筆一筆の意味がはっきりしてきます。
必要な道具と練習しやすい紙の選び方
筆(ふで)の選び方とサイズ目安
筆の最初の揃え方は個人差がありますが、筆者の経験では入門段階では中筆1本と小筆1本から始める方が多く、まずはその組み合わせで基本の幹・枝・葉の練習を進めると道具に慣れやすいのが利点です。
入門キットでは複数本を含むものも一般的ですので、自分の練習目的に合わせて追加してください。
竹の練習では、幹で太線を引いて、そのまま枝の細線へ移る場面が何度も出てきます。
穂先5cm前後の混毛は、この切り替えで含ませ直しの回数が減るのが体感的に大きな利点です。
筆を少し寝かせれば幹の量感が出て、立てれば枝の芯が出るので、一本の中で側筆と直筆を行き来しやすいわけです。
最初の一本を極端な短穂や長穂にすると、どこか一部は気持ちよくても、竹全体を通して見ると運筆のつながりが切れやすくなります。
具体名で見ると、入手しやすい例として呉竹の太筆景風 3号(参考価格: Amazon掲載例 ¥1,800、出典: Amazon、確認日: 2026-03-18)や、細筆らくし 7号(参考価格: ¥458、出典: Amazon、確認日: 2026-03-18)、さんらく 8号(参考価格: ¥632、出典: Amazon、確認日: 2026-03-18)などが挙げられます。
価格は流通先や時期で変動するため、ここでは参考価格として表記しています。
墨(すみ)・硯(すずり)・水差し・小皿
液体墨では墨運堂の玄宗などが定番のひとつで、500ccの販売例(参考価格: ¥3,180、確認日: 2026-03-18)といった事例があります。
販売価格は流通先や時期で変動するため、購入前に販売ページで最新情報を確認してください。
液体墨の販売例も価格は変動しますので、ここでは参考価格(出典: 販売ページ、確認日: 2026-03-18)として記載しています。
購入前に必ず販売ページで最新の価格・容量を確認してください。
硯は大きな高級品でなくても、墨を少量ずつつくれて、筆先を無理なく入れられる広さがあれば十分です。
ここで役に立つのが水差しです。
書道用の水滴でもスポイトでもよく、狙いは一度に多く入れることではなく、1滴ずつ濃さを寄せることにあります。
濃墨・中墨・淡墨を作るとき、どぼっと水を足すと一気に淡くなり、戻しにくくなります。
スポイト式だと、幹用の中墨を保ったまま、葉用の淡墨だけを少し伸ばすといった調整が落ち着いてできます。
小皿は3枚あると流れが整います。
1枚目に濃墨、2枚目に中墨、3枚目に淡墨を分けるだけで、竹の構造と墨色の対応が見えます。
節や前に出したい部分は濃墨、幹と枝は中墨、奥へ引きたい葉や下地は淡墨、という具合です。
水墨画の基本として複数段階の墨を並べる考え方は広く共有されていて、Japan Objectsの水墨画ガイドでも筆の洗浄や墨の扱いが丁寧に整理されています。
小皿は専用品でなくても、安定していて洗いやすい陶磁器の豆皿で足ります。
浅すぎると筆先だけが濡れ、深すぎると穂元まで墨が上がりやすいので、筆先を軽く含ませられる深さが合います。
紙の違いと最初の1冊
紙は仕上がりを決めるだけでなく、練習の心理的な負担も変えます。
まず押さえたいのは、画仙紙・麻紙・唐紙でにじみ方と筆足が異なるという点です。
画仙紙(がせんし)は濃淡が美しく、淡墨の広がりに水墨画らしい気配が出ます。
その一方で、薄くて筆足がつきやすく、迷った運筆がそのまま表面に残ります。
麻紙(まし)はにじみが控えめで、重ね描きに向きます。
枝を重ねても輪郭が崩れにくく、落ち着いた調子を作れます。
唐紙(からかみ)は画仙紙ほど広がらず、線の輪郭が残りやすいので、最初の練習紙として収まりがよい種類です。
竹の入門では、半紙や唐紙系の「にじみ控えめ」から入るのが素直です。
半紙の標準寸法は約242×333mmで、A4よりひと回り広く、余白を取りながら竹を立てる練習に向きます。
練習用の機械漉き半紙はにじみが穏やかで、紙面が破れにくいものも多く、筆圧と速度の関係を見やすいのが利点です。
唐紙で練習すると、筆を止めてもにじみが暴れず、線のエッジが残りやすい安心感があります。
幹の太さ、節の位置、枝の伸びる角度を見直しながら進められるので、最初の数回で「何が崩れているのか」を掴みやすくなります。
💡 Tip
練習計画は、1回目を半紙か唐紙系で竹の形だけに集中し、2回目に同じ竹を画仙紙で描き直す流れだと、紙の違いがはっきり見えます。形が同じでも、淡墨の広がりと余白の息づかいが変わるのが水墨画の面白さです。
水墨画用紙についてや水墨画ナビが整理する通り、画仙紙は本格的な濃淡表現に向き、唐紙は練習向き、麻紙はその中間に位置づけられます。
最初の1冊としては、半紙の練習束か、唐紙系のにじみ控えめな練習用紙を選ぶと、筆の結果が読めるようになります。
そのあとで画仙紙に移ると、同じ竹でも紙が墨をどこまで引き受けるかが急に見えてきます。
作業スペースの整え方
道具がそろっていても、机の上が混んでいると墨色の切り替えで手が止まります。
卓上は右上に水差し、左上に小皿3枚、手前に拭き布という配置にすると流れが崩れません。
右利きなら、利き手の動線から水が離れるので紙を濡らしにくく、左上の濃・中・淡へ自然に筆を戻せます。
拭き布を手前に置くと、余分な水を一瞬で切れて、墨が急に薄まる事故を防げます。
袖口をまくり、机には防水シートを敷いておくと、緊張せずに筆圧へ意識を回せます。
紙の下には下敷きを敷き、上部は文鎮で押さえます。
下敷きはフェルトやラシャ系の書道用が向いていて、筆先にほどよい抵抗が出ます。
机の硬さがそのまま紙に伝わると、幹の太線が滑って線幅が落ち着きません。
文鎮は半紙用なら長さ18〜22cm前後の横長タイプが収まりやすく、重さは160〜300gほどあると紙が浮きにくくなります。
300g前後の文鎮は見た目以上に安定感があり、幹を側筆で引いたときも紙がずれにくいので、線の始点と終点に迷いが出にくくなります。
この配置にしておくと、竹の練習でよくある「幹は良かったのに、枝に入る前に墨が濁った」「淡墨を作るつもりが全部薄くなった」という崩れ方が減ります。
道具は多く見えても、机の上でそれぞれの役割が分かれていれば、気持ちは静かに整います。
水墨画は禅とともに日本へ伝わったと和樂webが説明するように、少ない筆数で気配まで表す絵です。
その入口では、まず机の上の流れを整えることが、筆の迷いを減らす近道になります。
筆運びの基本|太線・細線・側筆・直筆を竹で練習する
竹は、幹の太さと葉の鋭さが同じ筆の中に同居する題材です。
そこで先に入れておきたいのが、側筆(そくひつ / side-brush)で太線を出す感覚と、直筆(ちょくひつ / vertical stroke)で細線を引き切る感覚です。
幹と葉を別の技法として分けて考えるより、筆の角度と圧、そして速度で線質が変わることを体に入れておくと、竹全体の調子がまとまります。
What is Sumi-eでも入門では姿勢と筆の扱いを基礎から整える流れが示されていますが、竹はその効果がそのまま線に出ます。
ウォームアップは、半紙に太線を10本、細線を10本だけで十分です。
太線は幅を変えずに引き、細線は長さをそろえます。
この反復で見たいのは上手下手より、筆を寝かせたときにどこまで厚みを保てるか、筆を立てたときにどこまで穂先だけで進められるかです。
私はこの段階で、肘先だけで小さく動かすより、紙に体を正対させて肩から送るほうが線の揺れが減ると感じます。
肘を机に固定せず、かといって浮かせすぎず、肩から筆を運ぶと線の途中で力みが抜けます。
線幅の微調整は手首のこね回しではなく、筆の回転で取ると、幹にも葉にもつながる安定が出ます。
直筆で細線を安定させる
直筆(ちょくひつ / vertical stroke)は、筆を立てて穂先で引く細線です。
竹の葉や細い枝で必要になるのは、この「先だけで運ぶ」感覚です。
筆軸が立つと接地面が小さくなるので、線は自然に細くなります。
ここで圧を入れすぎると、せっかく立てた筆が腹まで触れてしまい、葉先が鈍ります。
細線では、墨量を穂先側に残しつつ、紙に触れる力は最小限に近づける意識が合います。
細線が震える人は、手先だけで止めようとしていることが多いです。
私は葉の一息運筆を教えるとき、息を吐きながら引くことをよく勧めます。
呼気に合わせると肩が落ち、手元の細かな震えが減ります。
竹の葉は一筆の中に方向と勢いが必要ですが、息を止めると終点で急に詰まり、線が途中で太ります。
吐きながら、始点は小さく置き、そのまま一息で抜くと、葉に必要な鋭さが残ります。
半紙での練習では、同じ長さの細線を10本並べて、始点と終点の細さがそろうかを見ます。
速すぎると墨が飛び、遅すぎると線が重くなります。
細線では、圧は軽く、速度はやや迷いなくが基本です。
穂先が紙の中央を通っている感触があれば、枝の分岐も葉の返しも崩れません。
側筆で太線の厚みを一定に
側筆(そくひつ / side-brush)は、筆を寝かせて面で押し出す太線です。
竹の幹では、この面の使い方がそのまま存在感になります。
筆を斜めにして穂の腹を紙に当てると接地面が広がり、直筆より重みのある線になります。
ここで大切なのは、ただ寝かせることではなく、入筆の角度と初動の圧です。
幹用の側筆は、筆を紙に置いた瞬間の角度と最初の5mmで太さが決まります。
ここでためらうと、幹が途中から膨らんだ不安定な線になります。
置いた瞬間に腰を入れ、最初の短い区間で面を決めると、その後の厚みが落ち着きます。
太線は圧を強めるほど太く、重くなります。
ただし、圧だけで太らせると紙に食いつきすぎて、線の片側が潰れます。
側筆では、筆を寝かせたまま肩からまっすぐ送ることで、腹の面積を保ったまま進めます。
筆が進行方向に対してねじれると、線幅が途中で揺れて幹にムラが出ます。
そういうときは手首で補正せず、筆軸をわずかに回して、穂先の通る位置を整えるほうがきれいに収まります。
太線10本の練習では、一本ごとに太さを変えるのではなく、同じ厚みを保つことだけに集中します。
幹は節で変化をつけますが、基礎練習の段階ではまず一定の厚みが土台になります。
圧を入れる、速度を少し落とす、面を保つ。
この3つがそろうと、幹の線に芯が通ります。
竹の幹は丸太のように均一ではありませんが、基礎が安定していれば、その後に節やしなりを入れても線が散りません。
ℹ️ Note
[!CAUTION] 太線が途中で細るときは、後半で筆が起きています。細線が太るときは、前半で筆が寝ています。線の失敗は手元より、筆軸の角度変化に出ることが多いです。
かすれ(ドライ)の出し方と出しすぎ防止
竹では、幹にも葉にも少し乾いた表情が入ると、墨一色でも空気が出ます。
かすれは、墨が少ない状態だけで起こるのではなく、速度を上げたときにも出ます。
筆が紙の繊維を追い越すように動くと、墨の乗りが途切れ、ドライなテクスチャが現れます。
逆に、同じ筆でもゆっくり進めると繊維の凹凸を墨が埋めていくので、線はしっとりします。
つまり、かすれは「墨量」だけでなく、速度との組み合わせで作るものです。
ここで気をつけたいのが、かすれを出そうとして筆を押しすぎると、かえってかすれが消えるということです。
押圧が強すぎると穂の腹が紙に密着し、紙目の隙間まで墨が入り込みます。
結果として、見た目は太くても平板な線になります。
竹の幹で少し乾いた味を出したいときは、側筆のまま圧を必要以上に増やすのではなく、墨量を少し絞り、速度を少しだけ上げます。
すると、線の中に呼吸のような抜けが残ります。
葉でのかすれは、入れすぎると一気に弱く見えます。
葉は一息で抜く線そのものに勢いがあるので、ドライ感は先端か途中に少し見える程度で足ります。
幹なら中腹、葉なら終筆寄りにわずかに出るくらいが、竹の軽さと硬さの両方を残せます。
私は練習で、同じ太線をゆっくり3本、少し速く3本引いて、どこで紙目が見え始めるかを比べます。
こうして速度差を目で確認すると、「かすれを出すために押す」のではなく、「墨と速度で紙目を拾う」という感覚に切り替わります。
墨の濃淡の作り方|濃墨・中墨・淡墨の3段階
3皿で濃・中・淡を仕込む
竹に立体感を出したいとき、最初に整えておきたいのは線そのものより墨の階調です。
一本の幹でも、節の芯、幹の面、奥へ退く葉では求める濃さが違います。
ここをその場の勘だけで進めると、前景も背景も同じ重さになって、竹の空間が平らに見えてしまいます。
私は小皿を3つ並べて、皿Aに濃墨、皿Bに中墨、皿Cに淡墨を分けるところから始めます。
作り方は順番が肝心です。
まず皿Aに原液の濃墨を置きます。
次に皿BへAの墨を移し、少量ずつ水を足して目で見て中墨へ整えます。
皿CはBをさらに少しずつ薄めて淡墨にします。
ここで示した比率はあくまで目安であり、最終的には必ず試し紙で確認してから本画へ進んでください。
ここで示した数値や比率はあくまで目安です。
少量ずつ水を加え、必ず試し紙でにじみや濃度を確認しながら調整してください。
水を一度に入れると濃度の芯が抜けやすく戻しにくくなるため、少しずつ加えて微調整するのが確実です。
手触りにも差があります。
濃墨は筆が重く、紙面にすっと吸い付く感覚があります。
中墨は走りと粘りの釣り合いがよく、幹にも枝にも乗せやすい位置です。
淡墨になると筆がふっと軽くなり、呼気で揺らぐほど繊細に感じます。
この感覚の違いを知っていると、どの皿から取るかを目で選ぶだけでなく、手の中の抵抗でも判断できるようになります。
筆の中で2段階含ませる
3皿を作ったら、次は筆の中に階調を仕込みます。
水墨画では、皿ごとに墨を替えるだけでなく、一本の筆の中に2段階以上の濃淡を持たせると、線の中に自然な変化が出ます。
竹の幹や葉で単調さが消えるのは、この含ませ方の差が大きいです。
基本は、穂元に濃墨、穂先に淡墨です。
穂の根元側には重さのある墨を含ませ、先端には軽い墨を持たせると、筆を置いた瞬間に芯があり、抜くほどに空気が出ます。
幹では節まわりに力を残しながら、面の移りをやわらげられますし、葉では始点に厚みを置いて終筆を細く抜けます。
中墨を間に挟めば、穂元が濃墨、腹が中墨、穂先が淡墨という3層にもできます。
含ませるときは、筆全体をどぶっと浸すより、位置を分けて吸わせる意識が向いています。
たとえば一度中墨で筆の腹を整え、そのあと穂元だけ濃墨に触れ、穂先だけ淡墨を拾うと、線の中で階調がつながります。
こうしておくと、一筆の途中でわざわざ皿に戻らなくても、濃さの移ろいが出ます。
竹の幹の一節を引いたとき、片側に芯が残り、反対側にわずかな湿りが広がるのは、この筆中グラデーションの効果です。
Japan Objectsの水墨画ガイドでも、一筆の中に濃淡の呼吸を入れる発想が竹の表情を左右することに触れていますが、実際に描いてみると、これは技法というより準備の精度だと感じます。
墨を分けるだけでは平面的だった線が、筆の中で二重三重に含ませた途端、竹の丸みや節の張りに変わります。
とくに葉を連ねる場面では、毎回同じ黒さで打つと硬く見えるので、穂先の淡墨が入っているだけで風の通りが残ります。
💡 Tip
淡墨を先につけすぎて穂先が水っぽくなったときは、いきなり描かず、試し紙で一度だけ滑らせると含墨の層が落ち着きます。筆の中で濃・中・淡が混ざり切る前の状態が、竹にはちょうどよく働きます。
紙と湿度に応じたにじみ調整
同じ淡墨でも、紙が変わると輪郭の出方は別物になります。
たとえば画仙紙は淡墨が広がりやすく、筆を置いた直後から輪郭がほどけて、背景や遠景の空気を出すのに向きます。
麻紙は広がりが控えめで、落ち着いた調子を保ちやすく、重ねたときの扱いにも余裕があります。
唐紙は比較的にじみが少なく、形を見ながら練習したい段階で線の止まりが見やすい紙です。
前の道具選びで触れた通り、竹の練習ではこの紙差がそのまま難度差になります。
にじみを左右するのは紙だけではありません。
湿度が高い日は、同じ皿Cの淡墨でも紙の繊維へ入り込む速度が早くなり、輪郭が一段ゆるみます。
乾いた日は逆に止まりが早く、思ったよりエッジが立ちます。
ここで濃度の理屈だけを信じると、当日の紙面と噛み合いません。
私は描き始める前に、幹用の太線を一本、葉用の細線を一本だけ試し、にじみの幅と乾き方を見ます。
その二本で、その日の淡墨が背景向きか、まだ前に出るかがわかります。
竹では、にじみすぎる淡墨は奥行きになる一方で、主線に使うと形を失います。
画仙紙で湿度が高い日は、淡墨をそのまま幹へ回さず、中墨寄りに戻して輪郭を保つことがあります。
逆に唐紙で乾いた日は、淡墨でも広がりが足りず背景が浮いて見えるので、筆先の水分を少しだけ残して柔らかさを補います。
ここでも判断材料は比率ではなく、試し描きの一筆です。
ビジュアルで見せるなら、濃墨・中墨・淡墨の3段階を同じ紙に並べた比較写真があると伝わりやすいのが利点です。
さらに筆の角度と含墨位置を添えた簡単な図が入ると、濃さの違いが「色の差」ではなく「役割の差」だとつかみやすくなります。
淡墨は輪郭が柔らかく背景向き、濃墨は節やアクセントに向く、といった説明が視覚で入ると、竹の前後関係が頭の中で組み立てやすくなります。
ステップ1 竹稈(かん)を描く
構図としなりを決める
竹稈は、まっすぐ立てるよりも、まず画面のどこを通すかで印象が決まります。
中央に棒のように置くと説明的になりやすいので、紙の対角線をうっすら意識しながら、左下から右上へ、あるいは右下から左上へ視線が流れる位置に一本通します。
ここで鉛筆の下書きは使わず、淡墨で当たり線を一本だけ引くと、余白との関係がそのまま見えます。
BeBeの水墨画アートの竹の実演でも、最初に構図の流れを先に決めると幹の勢いが残りやすいことが伝わってきます。
当たり線は完成線ではなく、しなりの方向を手に覚えさせるためのものです。
竹は硬い植物ですが、絵の中ではわずかなゆがみが入ることで生気が出ます。
私はここで、定規で引いたような直線を避け、ほんの少しだけS字に寄せることがあります。
曲げすぎると若竹というより蔓に見えるので、見る人が気づくかどうかの揺れで止めます。
この控えめなしなりが、後の枝葉の向きまで自然につないでくれます。
実際の運筆では、側筆で中墨を取り、筆をやや寝かせて幹の幅を置いていきます。
下から上まで同じ圧のまま押し出すと、塩ビ管のような硬い線になります。
途中で筆圧をほんのわずかに抜き、上へ行くほど軽くすると、竹稈の張りと先へ向かう細まりが出ます。
幹の左右の輪郭も、きっちり平行にそろえず、数ミリ程度の揺らぎを残したほうが自然です。
竹は均質に見えて、実際には節ごとに呼吸するような太さの変化があります。
節間に白を残す描き方
竹らしさが立ち上がる瞬間は、節の描き込みよりも、節と節のあいだに白を残せたときに訪れます。
ここでの基本は、側筆で幹を引きながら、節の位置でいったん筆を離すということです。
一本の長い線をそのまま通さず、節で呼吸を切る。
その切れ目が白い隙間になり、節間の区切りとして見えてきます。
節の隙間を残すと一気に「竹らしさ」が立ち上がります。
筆を離す勇気が、最初の山場なんですよね。
描き方の感覚としては、幹を一節ずつ積み上げるイメージです。
中墨を含ませた筆を寝かせ、まず一節分を横方向へ少しスライドするように置きます。
縦に引いているつもりでも、実際には筆の腹を横に滑らせる意識があると面が安定します。
そして節の位置まで来たら、すっと筆を離して白を残し、次の節を少しずらしてまた置きます。
この「横方向にスライドして、節の間に隙間を設ける」動きができると、幹がただの太線ではなく、節を持つ竹稈に変わります。
節の高さは、機械的にそろえないほうが竹に見えます。
等間隔に並べると模様のようになり、植物の伸び方が消えます。
下の節はやや詰まり、上へ行くほど少し軽く抜けるくらいの変化があると、成長の方向が感じられます。
左右の節線も、ぴたりと水平を取りすぎず、わずかに傾きやズレを含ませると硬さが抜けます。
竹を描き始めたばかりの方ほど「そろえる」ことに意識が向きますが、竹稈では、そろいすぎないことが形の説得力になります。
かすれが出たときも、そこで描き直して太らせるより、幹の連続性が保たれているかを先に見ます。
初心者の竹は節が均一になりやすいですが、実際には少しのかすれや墨むらが入ったほうが、表皮の乾いた感じに近づきます。
一本の節ごとに墨量が少し違っていても、流れが途切れていなければ、竹として十分に成立します。
💡 Tip
節の白は「失敗して塗り残した空白」ではなく、最初から設計した余白です。筆を離す位置を先に決めておくと、節が点ではなく構造として見えてきます。
アクセントの入れ所
幹の形が取れたら、濃墨で節まわりに締まりを入れます。
ただし、ここで全体をなぞると中墨の呼吸が消えるので、入れる場所は絞ります。
効果が出るのは、節の両端、あるいは節間の片側の一部です。
竹稈は円筒なので、両側を同じ濃さで囲むより、片側に少し重みを置くほうが立体感が出ます。
光が当たる面を残し、反対側だけを締めるつもりで触れると、丸みが見えてきます。
このアクセントは、線を足すというより、骨格に芯を差し込む作業に近いです。
節の上下に短く濃墨を置くだけで、そこに張りが生まれます。
節間にも、ごく一部だけ濃い面を落とすと、単調だった幹に前後差が出ます。
入れすぎると竹の軽さが失われ、黒い筒のように見えるので、ひとつ入れたら少し離れて全体を眺めるくらいでちょうどよいことが多いです。
見直すときは、幹の太さに自然な抑揚があるか、節の空白が等間隔すぎないかを見ます。
上へ行くほど筆が軽くなっているなら、竹は立ち上がりますし、節ごとの白が微妙に違っていれば、生きた竹のリズムが残ります。
アクセントはその流れを壊さず、節の要所だけを支える程度で十分です。
ここで節の輪郭を全部説明しないことが、次の枝や葉に余韻を渡す下地になります。
ステップ2 節(ふし)と小枝(こえだ)を入れる
節帯の入れ方
竹稈の白い節間が取れたら、その隙間に節帯を入れていきます。
ここで使うのは、幹より一段締まって見える中墨から濃墨です。
幹の面がまだ呼吸しているうちに、白く残した切れ目へ水平気味の短い帯を置くと、竹の構造が一気に立ちます。
縦線に対してきっぱり横を入れるのではなく、ほんのわずかに弓なりを意識すると、筒の丸みが自然に見えてきます。
節帯は、一本の均一な横線にすると平たい印象になります。
竹は円筒なので、左右の端をやや濃く、中央をわずかに薄くしておくと、帯が幹に巻きついているように見えます。
筆先を置いた両端で少しだけ圧を感じさせ、中央へ来たら力を抜く。
この差だけで、説明線ではなく立体の情報になります。
BeBeの水墨画アートの実演でも、節がただの印ではなく、幹の丸みに沿って入ると竹らしさが増していました。
入れる位置は、前の工程で残した白い隙間の中です。
ただし隙間の真ん中を機械的になぞるより、少し上寄りか下寄りに触れたほうが生きた節になります。
私は、幹のしなりが右へ向く節では右端をほんの少し強め、左へ返る節では左端を締めることがあります。
節帯が幹の流れに従うと、一本の竹の中に重心が生まれます。
ℹ️ Note
節帯は「線を足す」のではなく、白く残した節間に骨を通す感覚で入れると、幹の面がつぶれません。 [!NOTE] 節帯は「線を足す」のではなく、白く残した節間に骨を通す感覚で入れると、幹の面がつぶれません。
枝は、節から規則正しく出る記号ではありません。
実際には節のやや上から出す例が多いのですが、毎回そこへ固定すると、途端に図案っぽくなります。
ある枝は節の上すれすれ、別の枝は少し離して出す。
その微差だけで、竹の伸び方に自然さが出ます。
枝の始点は節と関係づけつつも、全部を同じ位置にそろえないことが、単なる線の集まりから抜ける鍵になります。
運筆では、幹のときより筆を立てる意識が必要です。
枝は側筆で面を置くのではなく、穂先寄りで引く細線だからです。
筆の腹が紙に触れすぎると、枝ではなく細い幹のような線になります。
紙に入る瞬間だけ軽く止め、そこから穂先を滑らせると、接点が見えたまま先へ伸びます。
直筆に近い角度で持つと、節から出る細い張りが残ります。
角度にも長さにも、はっきりしたばらつきを持たせます。
上へ鋭く伸びる枝があれば、やや横へ流れる枝もある。
短く止まるものがあれば、少し長く伸びて葉の受け皿になりそうな枝もある。
全部が同じ角度、同じ長さだと、竹ではなく飾り模様に見えます。
大人の趣味探しでも、竹の枝は一定に並べるより、変化のある配置のほうが自然に見えると整理されていますが、実際に描いていてもその差ははっきり出ます。
ここで私がよく意識するのは、枝は呼吸のリズムで決まるということです。
ためて一息、ためて一息……と出すと、線の勢いがそろいすぎず、しかも弱くなりません。
急いで連続して引くと、二本目から接点が曖昧になり、先だけがかすれた頼りない枝になります。
ほんの一拍ためてから出すと、節から押し出されるような力が線に乗ります。
片側ばかりに枝を寄せると、構図が傾いて見えます。
左右に均等配分する必要はありませんが、画面のどちらか一方だけが混み合わないように、間を空ける場所も含めて考えます。
交差は少ないほど竹の清さが残るので、枝どうしを何本も重ねるより、角度差でリズムを作るほうが濁りません。
水墨画の竹の描き方:カスレ・技法を使ったリアルな表現にチャレンジ – BeBeの水墨画アート|べべ・ロッカ公式ウェブサイト
suibokugart.com前後関係のまとめ方
枝が増えると、どれが前にあり、どれが後ろにあるのかが曖昧になりがちです。
そこで役に立つのが濃淡での整理です。
前へ出したい枝は中墨からやや濃い墨で、後ろへ回る枝は少し淡く引く。
線の太さよりも、まず墨の強さで前後を分けると、交差を増やさなくても空間が立ち上がります。
前景の枝だけがはっきり見え、奥の枝は一歩引く。
それだけで幹の周囲に空気が入ります。
幹との接点も、前後関係を決める要所です。
前に来る枝は、節とのつながりを明確に見せます。
後ろへ回す枝は、接点を少し控えめにして、幹の面の向こうへ入っていく感じを残します。
どの枝も同じ強さで節に刺さるように描くと、一本の幹の周りに枝が貼りついた印象になります。
接点の強弱を分けると、枝が幹を巻くような立体が出ます。
交差は最小限で十分です。
重ねれば重ねるほど複雑になるわけではなく、竹ではむしろ清潔感が失われます。
前にある一本、後ろに退く一本、その間を空ける余白。
この三つが揃うと、少ない線でも整理された画面になります。
私は描き進めながら、枝の角度が単調になっていないか、幹との接点がきちんと見えるか、細線が途中で切れずに流れているかを何度も見ます。
ここが揃うと、葉をまだ入れていない段階でも、竹の骨格だけで立って見えます。
ステップ3 葉を魚尾法(ぎょびほう)で描く
一息の葉ストローク
竹の葉は、幹や枝以上に勢いがそのまま形になる部分です。
ここで使いたいのが魚尾法(ぎょびほう)で、起筆をやや強めに入れ、穂先を効かせながら、一息で尾を引くように抜きます。
葉の根元に少し厚みがあり、先へ行くほど細く軽く消えていく形が出ると、竹らしいしなやかさが立ちます。
筆を途中で言い直すように止めると、先が鈍くなって葉先の清さが失われます。
葉は一枚ずつ丁寧に描くのですが、丁寧さと遅さは同じではありません。
私は葉の練習で、ためらいが線にそのまま出る場面を何度も見てきました。
呼気を整え、一枚ごとに肩の力を抜いてから入ると、尾の抜けが素直に出ます。
逆に、形を合わせようとして筆先を見すぎると、起筆だけが重く、先で失速した葉になります。
魚尾法では、置く、引く、抜くが分かれて見えないことが肝心です。
BeBeの水墨画アートの竹の実演でも、葉は穂先の効いた一筆で流れを作っていましたが、実際に描いてみると、葉先が生きるかどうかは速度よりも息が切れないことで決まります。
枝の先端から外へ放つように入れると、葉が枝にぶら下がるのでなく、そこから生え出たように見えます。
💡 Tip
葉先が丸く見えるときは、筆圧よりも「抜くタイミング」が遅れています。先端まで描き切るのでなく、先端を残して空中へ抜く感覚のほうが、竹の葉らしい鋭さが出ます。
葉群の作り方
竹の葉は、一枚だけで置くより2枚、3枚と重ねて葉群にすると、ぐっと竹らしいリズムが生まれます。
基本は枝の流れに沿って、同じ方向へまとまりを作るということです。
たとえば右上へ伸びた枝なら、葉群も右上へ集まり、左へ返る枝なら葉もその流れを受けます。
方向が枝と切れていると、葉だけが貼りついた印象になります。
ただし、全部を同方向・同角度にそろえると、今度は単調になります。
そこで一群の中に、少し短い葉、やや角度を振った葉、一枚だけ交差する葉を混ぜます。
まとまりの芯はそろえつつ、一部で交差や重なりを入れると、風を受けた葉群の自然な乱れになります。
私はこのとき、まず主になる2枚で流れを作り、3枚目を添えて群れの厚みを出すことが多いです。
最初から全部を複雑に組むより、そのほうが枝との関係が濁りません。
画面の中での大きさの調整も、葉群の見え方を左右します。
中央付近や主役になる葉群は、やや長めで墨も充実させる。
画面の端へ行くほど葉を小さく、筆圧も軽くしておくと、視線が自然に中央へ戻ります。
大人の趣味探しでも、竹は葉の向きとまとまりで印象が決まると整理されていますが、実際の紙面でも、葉群ごとの方向がそろっているだけで画面に統率が生まれます。
重なりは「多いほど豊か」ではありません。
前の段階で作った枝の骨格がまだ見える程度に、葉群の間へ少し空気を残します。
枝先ごとに同じ数の葉を付けるのではなく、ある枝は軽く、ある枝はやや密にすると、群ごとのリズムが立ちます。
見直すときは、葉が一息で描けているかに加えて、葉群の形が毎回同じ扇形になっていないかも見たいところです。

水墨画初心者は描きやすい「竹」からチャレンジ!簡単な描き方 | 大人の趣味探し
中国から伝来し、日本でも発達した水墨画は、元々は禅の思想を表現したものと言われています。墨の濃淡だけで立体感を表す技法は大変優れており、風景画から、花や動物と言った西洋画風の題材、そして現在ではアニメも水墨画で描かれる場合があります。普通の
syumi-hiroba.com濃淡で前後を付ける
葉が増えてくると、形そのものより濃淡の差が前後関係を決めます。
前に出したい葉群は濃墨から中墨で引き、中ほどは中墨、奥へ退かせたい葉群は淡墨にすると、交差を増やさなくても空間が整います。
前景の葉だけが輪郭と芯を持ち、後景の葉は空気の中に溶けるように見えるので、竹の清涼感が保たれます。
とくに淡墨の葉は、形を説明し切らないことが効きます。
紙に少しにじみが出ると、葉の一本一本を数えなくても、奥に葉叢があると伝わります。
画仙紙のようににじみが立つ紙では、この淡墨がそのまま空気になりますし、唐紙のように輪郭が残る紙では、淡さの差そのものが奥行きになります。
前景と後景を同じ濃さで重ねると、葉が一枚の塊になってしまいます。
前景と後景を同じ濃さで重ねると、葉全体が単調な塊に見えることがあります。
前後を付けるときは、濃い葉群をただ増やすのでなく、濃いものは少数で効かせるほうが画面が締まります。
前に来る葉群は葉先まで気配を通し、奥の葉群はややにじみを許して輪郭を柔らかくする。
その差があると、同じ竹の中に手前の張りと奥の湿り気が同居します。
私は仕上げ近くになると、葉先が鈍っていないか、一息の線が途中でよれていないか、群ごとの濃さが全部同じになっていないかを見ます。
ここがそろうと、竹全体に呼吸が通り、幹から葉まで一本の気韻でつながって見えてきます。
濃いものは少数で効かせることで、画面全体が引き締まります。
仕上げと失敗の直し方
余白と最後の一筆
竹が一通り立ったら、描き足す前にまず余白の形を見ます。
幹、枝、葉そのものではなく、それらの間に残った白が、どこで息をしているかを見る段階です。
左と右、上と下の空き方が均等すぎると、竹が中央で止まり、紙の中で呼吸が浅く見えます。
反対に、片側だけ詰まりすぎていると、葉群が押し合って落ち着きません。
私は仕上げで紙を少し離して眺め、葉の形より先に白の流れが詰まっていないかを確認します。
そこで足すなら、多くの場合は淡墨の葉を1〜2枚で十分です。
濃い葉を増やすと主役が増えすぎて、せっかく整った幹の流れが散ります。
奥へ退く葉をそっと置くつもりで淡く入れると、詰まっていた空間だけがほぐれます。
竹は描き込みの量で完成度が決まる題材ではなく、止める位置で品が出ます。
紙面のどこか一か所に、まだ風が通る場所が残っていると、竹らしい涼しさが出ます。
署名は作品の調子を壊さない程度に控えめで十分です。
名前を入れるなら画面の隅で静かに添え、落款は任意として今回は割愛してかまいません。
竹のように線の気配が主になる題材では、署名が前へ出すぎると、視線がそこで止まってしまいます。
失敗別リカバリー
初心者の紙面でよく起こるのが、節が線路のようにそろう失敗です。
節の高さも幅も同じ、間隔も均等になると、竹ではなく目盛りの付いた棒に見えてきます。
このときは全部を描き直すより、次の節から高さ・幅・濃淡を少しずつずらすほうが立て直しやすいのが利点です。
節帯の両端だけをやや濃くし、中央を少し抜くようにすると、節に抑揚が出て、機械的な並びが崩れます。
幹そのものも、まっすぐ一本の筒ではなく、節ごとにわずかな呼吸があります。
そこが見えると、同じ竹稈でも急に生きものらしくなります。
葉が重くなる失敗も多く見ます。
葉群を増やすほど豊かに見えると思って重ねていくと、枝の骨格が隠れ、画面が一塊の黒になりがちです。
こうなったときは濃い葉をさらに足して整えるのではなく、淡墨の葉を上から重ねて奥へ退かす発想が有効です。
手前の葉を全部消すことはできませんが、淡い葉をかぶせることで、濃い葉だけが前面に張りついた感じを和らげられます。
あわせて葉群の数そのものを減らすつもりで見直すと、どこに間(ま)を残すべきかが見えてきます。
私は詰まった竹ほど、描いた葉の数ではなく「枝が見えている場所が残っているか」を判断の基準にします。
墨が広がりすぎるときは、技法だけで押し切ろうとしないほうが早いです。
にじみの強い紙で淡墨を使うと、葉先や細枝がすぐに甘くなります。
練習段階なら、紙を唐紙や麻紙に替えるだけで線の止まり方が落ち着きます。
比較すると、唐紙はにじみが少なく形が残りやすく、麻紙は控えめなにじみの中で重ね描きに余裕が出ます。
紙を替えない場合は、筆に含ませる墨の量を一段減らし、起筆前に穂先を軽く拭って水分を整えると、広がり方が急に穏やかになります。
とくに葉先は、墨量より余分な水分がにじみの原因になることが多いです。
ℹ️ Note
にじみが止まらないときは、墨が薄すぎるというより、穂先の中に水が残りすぎています。筆を整えたあと、穂先の外側だけを紙や布にそっと当てると、葉先の輪郭が戻りやすくなります。 [!TIP] にじみが止まらないときは、墨が薄すぎるというより、穂先の中に水が残りすぎています。筆を整えたあと、穂先の外側だけを紙や布にそっと当てると、葉先の輪郭が戻りやすくなります。
仕上げのあとに見逃せないのが、筆と用具の片付けです。
筆は使い終えたらすぐに冷水で洗い、根元までよくすすぐのが基本です。
穂先だけを軽く流して終えると、穂元に墨が残ります。
ここが固まると、次に使うとき穂先が割れ、細線がにじみます。
私は講座でも、筆は「すぐ洗う・根元まで揉む・整えて乾かす」の三つだけは毎回声をかけています。
実際、根元の墨残りを放置した筆ほど、次回の線が素直に立ちません。
手順としては、まず冷水で表面の墨を流し、そのあと指先で穂元をやさしくほぐしながら中の墨を出します。
熱い湯は膠気を傷めやすいので使いません。
洗い終えたら、穂先を指で軽くまとめて形を整え、吊るすか寝かせて乾燥させます。
乾かす場所は、直射日光の当たる窓辺や高温多湿の棚の上を避けると、毛の傷み方が違ってきます。
墨皿は水で洗ったあと、やわらかい布で乾拭きしておくと、次回の墨色が濁りません。
硯は水だけで洗い、洗剤や油分のあるものを使わないほうが表面の働きを保てます。
竹は一枚描き終えたあとより、次にもう一枚描くときの筆の状態で差が出ます。
道具が整っていると、最初の一筆から線に迷いが出にくくなります。
まとめと次のステップ
竹は、墨の濃淡と筆の角度がそのまま形になる題材です。
今回つかんでおきたい芯は、濃墨・中墨・淡墨の3段階を準備し、側筆と直筆を切り替え、幹から節、枝、葉へと進めて一枚にまとめる、という流れです。
筆者自身、同じ構図を濃墨中心と淡墨中心で二枚描き比べると、画面の空気ががらりと変わるのを毎回発見します。
描き終えたあとに並べて眺める時間まで含めて、学びは深まります。
次に手を動かすなら、この順で十分です。
- 半紙または唐紙で太線を10本、細線を10本引く
- 濃墨・中墨・淡墨の3皿を用意し、竹稈だけを5本描く
- 幹・節・枝・葉を別に練習してから、1枚に統合する
美術大学で日本画を専攻し、水墨画の技法研究で修士号を取得。カルチャースクールや自治体講座で15年以上の指導実績。画材メーカーとの共同研究で墨・和紙の品質評価にも携わる。海外の日本文化イベントで sumi-e ワークショップを多数開催。
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